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幼女だった。
血の気を失い、既に失神しているのか犬に翻弄されながらも抗う素振りを見せない。
足を噛まれているようだ。ふくらはぎから夥しい量の血が伝い地面を濡らしている。
幼女の締める可愛らしい緋色の帯が、陰惨な現実を際立たせているようだった。
この時ほどどこにでも首を突っ込みたがる自分の好奇心を後悔したことはないと、女は目を閉じた。少しくして目を開けた女の視野に、半狂乱で叫ぶ幼女の母親と思しき女が入った。
視線を巡らせば、見守る誰もがおし黙り、誰もが身をすくませている。
犬は低く唸り、己を注視する人々に威嚇し続けている。
女から少し離れたところに数名の若い衆がいた。
この状況にして、不相応にニヤけた顔を一様に浮かべている。
その中に女の見知った顔があった。
「若旦那!!」
呼び掛けられた男が首を回し女を認めると、悪びれる風もなく、表情を緩め、「なんだ、お紺か」と、むしろその笑いを誇示するかのように白い歯を見せた。
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