1.俺に何か恨みでも

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 俺はさぞかしマヌケな顔をしているのだろう。 元々顔立ちは良い方じゃないが、なんたって初体験をしたんだ。 開いた口はふさがらず、目はパッチリ。おまけに口と鼻を中心に白粉(おしろい)をつけている。 教室のあちこちで笑い声をこらえ、肩を震わせている人々が見えた。 「悪い、坂本!」  俺が突然のことで呆気にとられていると、右側から声がかかった。 ゆっくりと目線を動かしていけば、スッと通った鼻筋が目に入る。 続いて端が申し訳なさそうに下がっている二重の切れ目。 横に無造作に流されている前髪。 背景の窓から差し込む日の光でさらに薄い色に見える茶色い髪。 それらを持つ人物はこの教室に――いや、全校を探したって一人しかいない。 「……三上……お前は俺に何か恨みでもあるのか」 「いや、そういうわけじゃなくて……。単に手がすべったというか……」 「顔の高さでか?」  こいつが言うからなのか何となく嘘っぽい。
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