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緑の葉が色を変え吹き抜ける風に乗って金木犀の香りが街中を包む。
学校の周りにある樹々もそれぞれに葉を落とし色を変え綺麗に着飾っていた。
仁はキャンパスに走らせていた手を止めると一息付き、窓から見える四角い空をぼんやり見上げる。
澄んだコバルトブルーの空を真っ白な雲が風に乗ってゆっくり流されていく。
それを見て仁は「綿菓子みたいで美味しそうだよな」と声には出さず呟いた。
今は文化祭準備の真っ只中。
皆、忙しそうに独楽鼠のように駆けずり回り必死だった。
柚琉にとっては最後の文化祭で仁達にとっても就職に関わってくる大事な時期。大きな物を作り少しでも目に止まってくれたらと力の入れようは半端じゃない。
朝、早くから夜、遅くまで学校の明かりが消える事は、なかった。
仁は目一杯、伸びをすると一気に脱力する。
小さく息を付き凝った首を回し解すと再びキャンパスに鉛筆を走らせた。
頭の中では完璧に画が出来上がっているらしい。迷って手が止まる事はなかった。
仁は鉛筆の炭で手が黒くなる事も気にせずキャンパスと格闘する。
出来る時に進めておきたいと水もろくに飲まず、お昼はカロリーメイトで手早く済ませキャンパスに向かった。
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