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日が傾き西の空が赤く染まった頃、仁は漸く手を止めた。
小さく息を付き鉛筆をイーゼルに置き一息付くと「お腹、空いたなぁ」と思う。
大した物を食べていないから流石に、お腹が燃料切れを訴えていた。
窓から見える四角く枠取られた夕焼け空をぼんやり見上げ玲志の事を考える。
「玲志...まだ頑張ってるかな」
仁は、そう呟くと鉛筆の炭で真っ黒になった手を洗い、鞄を持って足早に教科室を出た。
外に出た途端、冷たい風が体を包む。夕方になると急に気温が下がり吐く息が白く煙る。
吹き付ける風の冷たさに仁は思わず身を縮こませた。
「早く買って戻ろう」と声には出さず呟き足を速める。
学校から少し離れた処にある黒に白の文字が特徴的な看板のコーヒーチェーン店。そこでパンとカプチーノをサーモマグで二つ買った仁は足取り軽く学校に戻った。
周りは作品制作に躍起になっていて必死なのが見て分かる。その横を擦り抜け長い廊下を茶色い紙袋を手に下げて悠々と歩く仁の横顔は何処か嬉しそうに見えた。
時々、紙袋を持ち上げ中を覗くようにしては僅かに笑みを零す。
不意に廊下の突き当たりの奥から何かを削るような固い物を打ち付けるような音が聞こえてくる。
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