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私は殆ど抱き抱えるようにして彼女を掴まえていなければならなくなった。
彼女は頭を私の胸から起こそうとして、頭をグリグリと回すとクスクスと笑い出した。
「あなた、可愛いわね」
クスクス笑いながら言った。
「うちも可愛いわよ」
何も言い返すことが出来なかった。
そんな絶好のタイミングを見計らうように、フランス風のドアから執事がやってくると、彼女を抱き抱えている姿を見られた。
彼にはそれを悩ましい光景だと見ていないようだ。
彼は背が高く細い白髪で、60歳前後だろう。
彼は遠くを見つめているような青い目の持ち主だった。
彼の肌は滑らかで輝いていた。歩き方は全身の筋肉が音を出すような歩き方だった。
彼はフロアーを横切り、私達に近付いて来ると、女の子は、私の腕の中から体を起こした。
素早くフロアーを横切り、まるで鹿が駆けるように階段を上がる。
私が深く息を吸い込み、吐き出す前には彼女の姿が消えていた。
執事が抑揚のない声で言った。
「会長があなたにお会いしたいそうです。マローさん」
私は下顎を胸から離すと頷いた。
「誰何だい?」
「カルメン スターンウッドお嬢様です、マロー様」
「あなたは彼女に言ってきかせるべきだ。
もうすっかり大人なのに、あんな子供じみた真似をするなんて」
執事は行儀良く悲しげな目で見つめると、最初に話した要件を繰り返した。
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