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「キャッ! 杏香?!」
あたしはボーっとしていたらしい。
後ろから急に杏香が抱きついてきて、思わず奇声をあげた。
「えーん! ナぁミぃぃ……」
杏香が思いっきり泣き真似をして、あたしの肩に顔をうずめてくる。
光也くんが呆れたように言葉を放げる。
「谷崎杏香は三年風組。
佐藤波子と沢浦光也は、花組だ。
……諦めろ」
やっとあたしは理解出来た。
親友の重みを体で受け止めて、頭を撫で慰める。
(三年生も、光也くんとおんなじクラスになれなかったね……でも)
「大丈夫。
休み時間もお弁当の時も、花組においで」
頬をピンクに染め、口もきけずに照れまくる杏香。
素敵な女の子の幸せな恋に、チリチリと嫉妬する……愚かなあたし。
杏香の髪についていた一枚の花びらを、つまみ上げる。
時計をチェックしていた光也くんに促され、あたしは学園講堂へ、新生徒会の二人は職員室へ。
静かな音楽室から、新学期に浮ついた制服の海に泳ぎ出る。
桜と一緒に盛大に散った冴えないあたしの恋なんて、誰にも感じさせないように……いつもの笑顔で。
手にしていた花びらを、あたしはそっと、校舎の外に舞い落とした。
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