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古い石造りの講堂は桜散る陽気を遮って、ひんやりとした空気を内包している。
擦り切れたビロード張りの椅子は、中学生のお喋りで満たされる。
花組の女の子たちに、あたしはにぎやかに囲まれる。
幼稚園のようなクラス名だけれど、高等部まで全学年花鳥風月編成の伝統校。
「ナミとクラス一緒でよかった!
ノートよろしくね」
「定期テストは安泰だ!」
無邪気な友だちの言葉に、あたしは笑顔で舌を出してみせた。
放送の準備で杏香が舞台上に姿を見せると、下級生の座席から黄色い歓声。
杏香が軽く片手を挙げると、騒ぎ声が空の二階席に反響する。
杏香を冷やかす男声も混じる。
周囲の子たちもあたしに顔を向けて
「杏香、ますますイケメンじゃん!」
「今年は会長だし、ファンクラブの差し入れ倍増だね」
「おすそ分け! 山分けしよ!」
「クラス違うけど、花組にはナミも沢浦くんもいるし」
と、口々に盛り上がる。
杏香は自慢の親友。
式典が始まり、講堂は本来の静寂を取り戻す。
あたしはやっと一息、始業式の間中、散りゆく片想いをひとり噛みしめていた。
これから波乱の恋が待ち受けているとは、思いもよらずに……
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