第二楽章…雨にオチル

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あたしの父は議員。 とても目立つ職業だったりするけれど、娘のあたしにとっては、ただ窮屈なだけ。 派手に生活すると有権者に嫌われる、なんて周囲の大人たちから厳しく言われて…… 雑誌に見飽きる頃には、録画分もパックも終わる時間。 部屋とベッドをきっちりと片付け、顔パックとパジャマのままバスルームへ。 朝の儀式はこれで終わり。 「もう……駄目よ、わたし……」 「すぐだから、我慢して……」 「……ああっ……ん……」 梅雨だからかペタペタ湿った足音を立て、裸足で廊下を歩いていく。 と、夕子姉さんの私室の扉の隙間から、他の人の声までが漏れ聞こえた。 (嫌だ! 四階は自宅なんだからね! 下の事務所と違って、他人は立ち入り禁止でしょ!) とっさに大声で抗議しそうになったけれど……あたしは今、顔は白仮面、夜用矯正下着の上に汗で湿ったパジャマ。 仕方なく怒りと気配を殺して部屋の中を覗き、あたしは息を飲んだ。 なぜか黒い夜会服で佇む夕子姉さん。 首筋から足先までピッタリと纏わりつく、漆黒の絹。 その真っ黒な闇にスッと裂け目のように浮かぶ、白い肌。 あたしの視線が落ちていく。
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