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ふと隣を見ると、大下さんもミラー越しに、夕子姉さんから目が離せないでいる。
スーツから覗く首までも真っ赤にして……
心の中の焼ける想いを、ため息で何とか追い出す。
(あたしが好きになる人はいつも、夕子姉を好き……また)
中肉中背の体。
驚くほどブスでもなく、息を飲む美しさもない……凡庸でつまらないあたし。
まだ人気の無いレンガ造りの正門の前で、車が止まる。
あたしはせめてもの強がりを振り絞り、笑顔を作る。
助手席から降りて
「大下さん、ありがとうございます。
今日からまた、一年間よろしくお願いします」
と、丁寧に頭を下げた。
「中学も最後の年だね。
頑張って」
普段の精悍な顔に戻る大下さん。
「タコ姉を、よろしく!」
あたしはわざと大きな音を立てて、扉を閉めた。
片思いの気持ちの扉も一緒に、バタンと。
「タコじゃないわよー、夕子お姉さまでしょー」
うなじを春風に晒しながら、懸命に車内の桜を集める夕子姉さんが叫ぶ。
あたしは答えずに車に背を向け、中等部の校舎へと歩き出す。
頭に付くたくさんの花びらにも、気づかずに……
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