第一楽章…桜雨

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《ナミ》 ………… 銀色の塊が弧を描いて、あたしの頭上を通り過ぎる。 パシッと受け取る音と一緒に 「お、やりぃ! おかか!」 背後で杏香の弾んだ声がした。 音楽室の扉にもたれている光也くん。 制服はきっちり着るくせに、短めの髪を相変わらずツンツンにねじって、ポケットに片手を突っ込んでいて…… 「杏香、生徒会長の初仕事、遅刻」 表情は逆光で見えないけれど、他には絶対向けない優しい声。 (杏香は、ちゃんと愛されてるな……羨ましい) 振り向くとそこには、おにぎりをアルミホイルから取り出し、嬉しそうにかじりつく杏香。 漆黒のショートヘア、細い指、長いまつげ。 高い鼻に薄い唇は一見美少年のようだけれど、くるくる動く瞳は可愛らしい女の子。 大口でかぶりついても、何をやってもサマになる杏香は、次元の異なる美貌の夕子姉さんとはまた違った、憧れの的。 「ん!」 杏香が片手を差し出すと、今度はいちご牛乳のパックが空を舞う。 「サンクス」 再び銀色の塊が飛ぶ。 (あたしには……こんなに息の合う彼氏なんて、一生出来ないよ……) 早朝の恋の喪失感がよみがえり、唇がわずかに震えてしまう。
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