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あきとは決して美人ではなかった。
しかし、どうしようもないほどのブサイクというわけでもなかった。
いわゆる普通の顔立ち。体型も多少痩せているが標準。
この世の評価の基準が“美人”か“ブス”しかないのであれば、あきとは“ブス”の部類に入るだろう。
それは、あきと自身も自覚していた。
そんな自分が彼女は大嫌いだった。
しかし、そんなあきとでも唯一自分の好きな部分がある。
それは、背の中腹ほどに伸びた髪だ。
毎日手入れを欠かさずにココまで伸ばした。枝毛なんて一本もないだろう。
枝毛がないだけではない、サラサラだ。
この髪に似合う形容は“サラサラ”以外にない。
そんな髪が、彼女の唯一の自慢できるところで、好きなところだった。
彼女の前髪を止めてあるオレンジ色のピン止めがキラリと光り、ふとあきとはもしかしたら、自分の携帯の時間が間違えているのかもしれない。
あきとはそう思って右腕にある時計を見た。青いリストバンドの上にはシルバーの時計が映えていた。
左腕にも同色のリストバンドがつけてあった。
普通は利き腕にリストバンドをつけてあるだけだろう。別にあきとはスポーツマンというわけではない。
中一のときから、外出する時……学校に行くときも例外でなく、このリストバンドをつけなかったことはなかった。
高一の今でも、それは変わらない。
「んー、事故にでもあったんかな」
小西昴(こにしすばる)はそう言って、時計を見た。約束の時間より5分過ぎている。
昴はイライラしたようにもう一度『んー』と言った。
部活帰りなのだろう、隣り町にある有名私立の指定ジャージを着ている。
彼らの待つ、長瀬拓也(ながせたくや)は約束を破るような男ではない。
だからこそ、昴は心配していた。
先ほど言ったとおり、拓也は約束を破る男ではない。
となると、事故にあっていたり、何か厄介なことに巻き込まれているかもしれない。
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