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でも、まさか、この僕とリリカみたいな美人とこんな関係になるとは思っても見なかった。
初めてリリカとまともに話したのは、彼女が僕を追いかけて傘を持って来てくれた日だった。
リリカはあまり愛想のいい店員ではなかった。
店では、ほとんど笑顔も見せずに、無表情で飲み物を作ったり、グラスを拭いていたりしてた。
そんな彼女が、息を切らせながら僕の肩を叩いた。
僕が振り向くと、忘れ物ですと微笑んだ。
この時、初めて見たリリカの笑顔に僕は情けない事に見とれてしまった。
彼女の笑顔は、はにかんだ感じが可愛く、辺りの空気を華やかにしてしまう。
「こんな安い傘なんて捨ててくれればいいのに…。わざわざ走って持って来なくても」何だかとても照れくさくなり、リリカの笑顔から一瞬だけ目をそらした。
「だって、雨が降ったらお客さん濡れちゃいますよ。だから、気にしないで下さい。それじゃあ、私は片付けがあるので。またお待ちしてます」彼女は笑顔でそう言って、手を握って広げてグーパーとした。
これはリリカのお別れの挨拶だった。
この可愛らしい仕草に、僕の胸はときめいた。
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