18人が本棚に入れています
本棚に追加
それから、僕がお店に飲みに行くとリリカと会話をするようになった。
おとなしいと思ってた彼女は、少し毒舌で醒めているところはあるものの、根はとても優しい女の子だった。
ある日。
職場から家に帰ると、珍しい事に妻が家にいた。
僕がただいまと言っても返事もなかった。
妻はコンビニで買ったパンをかじりながら、何かの本を読んでいた。
「…ハァ。今帰ったよ」
「あ、そう。おかえりなさい。今日は珍しく飲みに行かなかったのねぇ。いつものように行ってきたら?あなたの食事ないし」冷たく僕を一瞥すると、彼女はまた本に目を戻した。
それからは、まるで目の前の僕がいなくなったようだった。
一体、妻にとって僕はなんなんだろう?
息子が死んでから、妻は教師という職業に一層のめり込んでいるのがわかる。
気持ちはわからないでもないが、ほっておかれる僕はどうすればいいのか?
息子が死んでちょうど10年はたつが、こっちがどんなに歩み寄っても妻が寄ってくる事がなかった。
妻との事で、すっかり疲れはてた僕の頭の中にリリカの笑顔が浮かんだ。
こんな時に思い浮かぶなんて、僕はなんてズルい男なんだ。
だけど、僕は着替えもせずに家から出てリリカの働くお店に向かった。
最初のコメントを投稿しよう!