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そんな俺達は、ある日藤河さんが人知れぬ秘境の地にある温泉を見付けたらしく、そっと誘ってくれた。
勿論、2人きりで。
俺には司書の恋人が居たが、音信不通が続いていた頃だったのもあり、誰にも内緒で、藤河さんのバイクの後ろに乗せて貰って、その日の内に泊まりで向かった。
着いた先は大きな旅館で、部屋や露天風呂も結構広かった。
着いたのが夕方だったのもあり、早々に露天風呂へ行こうと言う話になった。
「辻、早く。先行くぞー」
藤河さんは浴衣に着替えると、もたつく俺を急かす様に足早に部屋を出て、綺麗な中庭を通り抜け露天風呂へ向かってしまったので、慌てて後を追ったのだが…。
俺が着いた頃には、既に洗い場で体を流し、外に面した満天の星空の下、湯に浸かっていた。
「辻、遅い。早く来いよ。気持ち良いぞー」
うっとりしながらも愉しそうな表情で手招きされ、隣にゆっくりと浸かり、貸し切り状態の露天風呂を楽しんだ。
途中、岩の上に座って体を冷やしたりしつつ、会話をしていた…が…。
「ふ、藤河さん!?」
隣で浸かっていた藤河さんが突然湯の中に沈み掛けたので、咄嗟に体を支えると余りにも温かくて寝てしまった様で、気持ち良さそうに寝息を立てていた。
「寝てる!?…ヤバイ…このままじゃ茹でタコになる…!!」
慌てた俺は、何時もの様に、藤河さんを背中に背負う様にして露天風呂から出て
「藤河さん…見てませんからっ!!」
そう言いながら、下着を穿かせる時だけは目を逸らして浴衣に着替えさせ、秋の虫の音を背に月明かりに照らされた中庭を藤河さんを背負って部屋に戻った。
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