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音信不通になる前、俺の自室に恋人が訪ねて来た時があった。
その時は、たった1通の手紙を残し姿すら見せてくれなかった…。
部屋には藤河さんが居たが、ハロウィンの翌日で、俺は時計うさぎの格好をしていた際に赤のカラーコンタクトをしていたのに、誤ってカラーコンタクトをしたまま寝てしまい、痛くて泣いていた俺のカラーコンタクトを外してくれていただけだった。
合鍵も恋人は持っていたのに、それすら使わず顔を見る事もせず
【当分仕事が忙しくて逢えない】
たったその一文のみの手紙で消えてしまった…。
読んだ瞬間に頭が真っ白になり、追い掛ける事も出来ず、俺の様子が可笑しくなった事で不審に思った藤河さんに手紙を差し出すと、何時になく怒りを露わにして手紙を握り潰し、ドアを睨み付けていた。
気付けば俺は、藤河さんに促されベッドに腰掛けると、その胸で泣いていた…。
其れまでも、数ヶ月逢えない日々が続き、漸く逢えても束の間…。
約束の様に薬指に光る金の指輪にすがり、寂しい夜を過ごして居た日々。
なのに、当分逢えないと、何故そんな大事な事をドアの前まで来たのに直接言わずに行ってしまったのか…。
元々、藤河さんは俺の恋人の司書の事は快く思っていなかった。
『別れちまえよ』と何度も言われたりもした。
でも、それは自分が嫌いだからではなく、俺が司書と付き合い始めても、ちっとも幸せそうではなかったから…。
誰よりも、俺を大切に想ってくれていた…。だからこそ、放って置かれて本当は寂しさで泣いている俺を、誰よりも知っていた藤河さんは
『それくらいにしか思っていない、指輪で繋いでるだけで、軽く扱ってる様にしか思えない奴に、大切な親友の辻を渡す訳にはいかない』
そう毒吐いていた。
藤河さんは好戦的なタイプではないけれど、こと俺に関しては相当らしく、同じ席になると俺の顔を立てて多少は話してくれるけれど、好んでは一緒には居ない…。
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