零れる笑みは君を想うから

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大通りに出ると、煉瓦作りの歩道と等間隔に植えられたイチョウの木々が出迎える。 この時期は何の彩りも無いが、秋が深まると印象的な風景となるこの通りを私は好きだった。 彼女……「河野愛美」と出会った場所だからだ。 あれは三年前の秋。 花屋の軒先で雨宿りをしていた彼女に一本しか持っていなかった傘を差し出した。 「私に傘を渡してしまうと貴方が濡れてしまいますよ」 と、申し出を断った彼女に 「では、一緒に濡れませんか?」 と、半ば強引に駅までの道のりを共にした。 あの時、何故あんな事を言ったのか今でも不思議だが、それが縁となり現在に至る。 この道を歩くといつも昨日の事の様に思い出す。 それもあって私達の待ち合わせ場所は、思い出の花屋になる事が多い。
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