鈍色

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「う~わ~悪っそうな顔~」 「・・・・」 緩んだ口元を元に戻して無表情のまま首を横に回し、今度はニヤリと笑ってみせた。 「何それ?俺褒められてる?」 「う~わ~悪っそうな顔っ!」 けどこいつにとっちゃどっちも同じ顔に見えたらしい・・・。 「・・・・はぁ」 茂木に一瞥をくれてやってから、今度は俺の方から先に歩き出した。そして後から付いてきて、俺の斜め後ろを歩く茂木。 「なぁなぁあの子だろ?マーくんが」 「それ止めろ」 「マー坊が」 「・・・・・」 こいつは昔からこうだ。 やるなと言うと余計にそれを引っ張りたくなる性格。非常にうざい。そしてうざくなった俺はいつも無視する方向に思考を転換する。そして茂木はそれに構わず続ける。 「最近お気に入りの子。だけどさ~良い訳?あの子だけ特別みたいな扱いして。みんなの憧れの生徒会長は特定の子作ったらまずいんじゃないの~?」 「ふっ。別に?いいんじゃない?憧れだって何だって人間なんだし?好きな子ぐらいいたって不思議じゃないだろ」 「ふーん、将生いっちぃのこと好きなんだ?」 “いっちぃ” 「・・・香月、手出すなよ」 「え?それが答えってこと~?あの子めっちゃ普通の子じゃん?将生、趣味変えたわけ~?」 「は?冗談、そんなわけないだろ」 「あ~将生は年上好きだもんね~?じゃあ、遊びってことか」 「ははっ。遊びにも入んないよあんなの」 「ふ~ん?まぁ~将生が本気になってる子なんてみたことないけど・・・」 「・・・・」 本気・・・。 昔から何事にも執着しない、いやできない俺には頭ではわかるけど理屈ではわからない感情。 「・・・あ~」 一度口を閉じた香月がまた眠くなるような音程の声を出した。 「けどあの子さ~少し“ミツ”に似てない?」 「・・・・」 “ミツ” 久しぶりに耳にした名前に心臓がドクンと脈打つ感覚が走った。 以前壱花ちゃんにした女の話はあながち嘘じゃない。 ミツ・・・・ 今でも俺の頭の隅にこびりついて取れない記憶の欠片。 泣きながら 大嫌いと言いながら 俺にキスした女。
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