鈍色

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「はぁ!はぁ!はぁ!」 こんな必死に走るの何年ぶり? まじありえないんだけど。 体育の授業だって適当に力抜いて走ってるっていうのに・・・ 「はっはっはっ・・・・っ!ゲホッ!」 もう息切れしてきた。 疲れた。 今更、 本当に“今更” 俺が瀬田んちに行ってどうすんだよ? ピンポンって押すわけ? 押した後どうするわけ? 瀬田か壱花ちゃんが出てきたら何て言うわけ? 全然何も考えてないんだけど。 何しにきたんだよって話だよ。 それこそまじありえないんだけど。 つか熱い。 汗かいて気持ち悪い。 嫌なら走るのやめたらいいのに・・・ なんて思うのに、それでも一生懸命前へ前へと足を動かすのを止めないのは・・・ 「・・・はぁ!はぁ!つっ着いた・・・・はぁ!」 瀬田のマンションの下。 額の汗を手で拭いながらマンションを見上げた時だった。 ドンッ!! 「っ!?」 胸の辺りに何かがぶつかってきて、びっくりして下を向けば・・・ 「ごっごめんなさ・・・って!?え?かっ会長!?」 「・・・・」 「なっなななんでここに・・・」 それは俺の台詞だよ。 まさか走りすぎて幻覚でも見えたのかと思ったよ。 だけどそれは幻覚なんかじゃなくて・・・ なぜか彼女の目の端には雫が光ってて頬にもそれが流れた跡がついている。 一体どうゆう状況で瀬田の家から出てきたのか分かんないし、気になるけど、今はそれよりも・・・ グイッ!! 「えっ!?」 「・・・・るな」 ギュッ… 「逃げんなよ。勝手に俺のところからいなくなるなんて許さない」 ギュゥゥゥ… 腕に力を入れて、細っこい体を抱きすくめた。 ああ、本当はずっと “ペット”とか“生徒会”とかそんなものじゃなくて、 こうやって 自分の腕で 囚えておきたかったんだ・・・。
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