鈍色

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初めの“理由”は 『ミツに似てたから』 だからキスしたんだ。 ミツの代わりに・・・復讐してやろうかなって、ね。 次の“言い訳”は 『ペットだから』 ペットだから・・・飼ってる責任上構ってあげなきゃ可愛そうだろ? だから用もなく朝、学校までの道のりを少し遠回りしてキミが通る道を通ってみたり、 学校のどこかで姿を見つけると“みんなの生徒会長”という役を忘れて話しかけてみたり・・・ 俺は 今まで何回使ってきたんだろう? 『だけど』 『でも』 『だって』 いくら理由を考えたって いくら自分に言い訳したって・・・ ダメなんだ。 どうしたって理由とか言い訳が後になって、自分の一番真ん中にある感情が一番前に来るんだ。 それにはもうどんなに頑張ったって勝てっこないんだ。 だから嫌なんだよ。 かっこ悪すぎんだよ。 あ~畜生。やってらんない。 本当・・・ 『好き』って感情ほどやっかいなものなんてない。 「・・・・・ん・・・」 『あ、壱花。会長さん起きたんじゃない?』 『え?本当?』 「・・・・・」 まだぼんやりする頭にぼんやりする視界。 だけど耳からははっきりと声が入ってきた。 知ってる声と知らない声。 知らない天井に・・・なんとなく知ってる匂い・・・・。 (どこだここ!!?) ガバッ!! ポロ… 急にはっきりしだした頭。 思わず飛び起き・・・ え?俺寝てた・・・? 「・・・・?」 (タオル?) 起き上がった拍子に上から落ちてきた、濡れた生ぬるいタオルを手に持って、今自分がどういう状況下にいるのかを考えていると 「会長!気分はどうですか!?」 「・・・え?」 顔を上げれば俺が寝ていた布団の脇の手前に知ってる顔。 「え、あ、うん、何だろう・・・すっきりしたかも」 俺がそう答えると 「良かった!お医者さんに注射打ってもらっただけはあるね!」 知ってる顔のその奥のもうひとつの顔が嬉しそうにそう声を弾ませた。 知ってる顔に似てるけど、それよりももう少し目元がキリッとしてて・・・ ニコッ あ、笑うとそっくり。 「はじめまして。壱花の兄の吉井 尊です」 「・・・・」 (兄?ああ・・・通りで顔が似てるわけ・・・え?兄?) ニコニコ 「・・・・」 「・・・・」 俺は寝てる間に・・・ 一体どこに迷いこんだ!?
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