鈍色

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タクシーが俺の家の前に着いた。 ブロローと響くタクシーのエンジン音がだんだん遠のくのを耳にしながら 何となく、理由なんてないけれど空を仰いで見た。 俺の上には満点の星。 いや、俺にだけそう見えたのかも。 やけにキラキラ輝いて見えた。 別に現状が変わったわけじゃない。 彼女の気持ちは俺とは違う方向に向いたままだ。 ただ自覚して、認めて、もう一度胸の痛みを思い知っただけ。 それでもあんなにギスギスしていた心はこんなにも穏やかで、 黒にしか見えなかった世界は少し色を変えて映し出さる。 “嫌いになれないんですよね~・・・” たったそれだけだ。 『単純すぎだろ』って笑えるけど、 今はそんな笑える自分が嫌いじゃない。 (はぁ~疲れた。さっさ風呂入って寝よ・・・) 早く 早く 明日になれ。 だってそこには 『今日は』 が待っているから―――・・・  
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