420人が本棚に入れています
本棚に追加
こんな時間じゃ、居留守を使うことも出来やしない。
どうせ同窓会でも顔を合わせるのに……。
そう思いながらも仕方なく玄関へ向かい、ドアを開ける。
「やっぱり居た。居るんなら電話にぐらい出ろよな」
ドアを開けるなり、小言を口にしたのは予想通り貴明だった。
「通話代を節約してあげたんだよ。どうせ貴明のことだから、近くに居たんでしょ?」
室内に招入れながら問い掛ければ、あっさりと肯定の返事。
「それで、こんなに朝早くに何の用。同窓会で顔を合わせるのに」
大して広くもないキッチンで湯を沸かしながら、つい思ったことを口にしてしまう。
「その同窓会に一臣も来るってよ。行き辛いようだったら一緒に行こうかと思って」
一臣の名前を聞いた瞬間、心拍数が上がったのが自分でも分かる。
「知ってるよ。だけど、あれから十年も経つんだから、僕は平気だよ」
そう、あんな夢さえ見なかったら。
「だけどまだ忘れられていないだろう?」
図星を突かれ、反論する言葉を失う。
貴明だけは、僕が一臣を好きだった事を知っているから……。
「やっぱりな。名前を聞いただけでそんなに切なそうな顔をするくせに、無理に強がらないでくれよ。せめて俺の前でだけはさ」
「貴明にはお見通しか……」
もう溜息しか出ない。
十三年も付き合っている以上、隠し通そうとしても無駄だということを思い知る。
最初のコメントを投稿しよう!