始まり

14/16
前へ
/329ページ
次へ
クローゼットから、そう多くはない手持ちの洋服を出し、何を着ていこうか悩んでいると、砂由が戻ってきて呆れた顔をした。 「たかが徒歩10分のスーパーに行くのに、着飾る必要がどこにあるのよ。 それとも、武君が一緒だから?」 からかいを含んだ砂由の詮索に、ドキッとした。 相手は武君じゃないけど。 私の表情の変化を見逃さなかった砂由は眉をひそめた。 「まさか図星なの? 悪い事は言わないからやめておいたほうがいいわ。 晶が手におえる相手じゃないわよ。 楽しいし、優しいし、見目はいいけど、あの男は誰か一人に決めてちゃんと恋愛するタイプじゃないわよ」 「ち、違うから。 私、武君みたいな人苦手だし。 でも、砂由ってあんなちょっと話しただけでそんな事が判るんだねぇ」 砂由の鋭い観察眼に、感心だ。 私は絶対そんな事見抜けないもの。 いや、多分女の子からもてるだろうなとは思ったけどさ。 砂由は満更でもなさそうに、口角をキュッと上げて、微笑んだ。 「色んな人間と接していれば、大体判るようになるわよ。 じゃぁ、晶が朝から化粧頑張ったり、洋服を選んだりしているのはどうして? もしかして、同室の樹の為?」 砂由の顔がグッと近付いてきて、瞳が妖しく光った。 なんだかすべてを見透かされてるみたいだ。
/329ページ

最初のコメントを投稿しよう!

164人が本棚に入れています
本棚に追加