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だが、私って人間はタイミングが悪いらしく、会いたくないと思っているて会ってしまう節がある。
今夜も例外ではなかった訳で、ロビーから2階へ上る階段の手前で、声の主たちと顔を合わせる羽目になった。
「牧野さんじゃない」
二人連れで、どちらも今日入寮した私の同級生だ。
食堂で行われたオリエンテーションで見たので顔は知っていたけど、名前までは覚えていない。
顔を覚えていたのだって、新入生で寮に入った男子学生はこの二人だけだったからだし。
私を見て即座に名前が出たのは、背の高い精悍な顔つきをした、はっきり言って美丈夫な青年だ。
もう一人は、身長はそこそこだが、優しい顔つきをしていて、何処か幼さが残っている。
「えっと……」
相手が名前を覚えてくれていてくれるというのに私は覚えていないというのは非常に失礼な話で、口籠ってしまった。
そんな私を見て、美丈夫な方が可笑しそうに笑った。
「本田武。
覚えておいてね。
で、どうしたの?眠れないの?」
名前を覚えていなかった事に気を悪くした様子はなく、本田君は優しく問いかけてくれた。
「うん、ちょっと。
二人は?」
「コイツ――北村樹って言うんだけど、ホームシックで眠れないらしくて寝返りが煩いから、気晴らしに散歩」
「余計な事、言うなよ」
それまで黙っていた北村君が、顔を赤くして本田君を睨んだ。
どうやらこの二人、同室らしい。
「私もだよ。
私もちょっとホームシックみたいな感じで眠れなくて。
気晴らしに散歩」
と、言っても門限が過ぎると玄関は鍵がかかってしまうか ら、ロビーをうろつく位しか出来ないのだけれど。
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