始まり

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「遅くなって、ごめん。 これ、眠れない時に傍に置いておくと良いらしいから」 急いで戻ってきた様子の北村君に手渡されたのは、可愛いプリントの麻袋で、淡いラベンダーの香りがした。 「これ……?」 「母親がさ。 眠れなかったら枕元に置けって、無理矢理持たせてくれたんだけどさ。 ポプリ持ってる18の男って、気持ち悪くない? でも、母親の愛情だって思って持ってきたんだけど、牧野さんに役立ててもらえるなら、荷物の底になっているより良いから」 人柄の良さそうな笑顔を浮かべた北村君に見惚れてしまったのだけど、彼は心配そうに表情を曇らせた。 「もしかして、ポプリの香りとか苦手だった?」 「あ、違うの。 ありがとう。 今夜から、早速枕元に置いてみるね。 私、ラベンダーの香り、大好きだし」 「そう? だったら良かった」 安心したように、北村君が笑う。 その顔は本当に嬉しそうで、本田君が彼の事を素直な奴だから、と、言った理由が判る。 「じゃぁ、私、部屋に戻るね。 おやすみなさい」 二人に頭を下げて私はロビーから立ち去ったのだけれども、彼等はまだ時間を潰していくみたいで、こんな夜中に荷物漁って探したの?なんて呆れた様子で言っている本田君の声がした。
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