始まり

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私を眠りから引きずり出したのは、携帯のアラームだった。 2段ベッドの上から、砂由がセットした目覚時計のベルの音がする。 「おはよう」 お互いにカーテンの間から顔を覗かせて、挨拶した。 時間的にはそう長くなかった睡眠だったけど、深かったからか意外に頭はスッキリしている。 「朝ご飯、作ろうか」 「うん、そうだね」 この寮は、食堂はあるものの、ご飯を作ってくれる人がいる訳じゃない。 広い調理場が一階の食堂にあって、そこで各々が調理出来るようになっている。 各部屋には冷蔵庫と電子レンジと炊飯器があり、ミニキッチンも備えられているが、小さなシンクと作業台だけで、コンロはない。 火を使う調理をしたい時には、調理場に行くしかないのだ。 昨日は荷物を片付けるだけで精一杯で買い物に行けず、門限ギリギリに砂由とワリカンでコンビニで買ってきたパンと卵くらいしかない。 パンはともかく、卵は焼かなきゃいけないので、食堂にいかなきゃいけないんだけど。 砂由と準備してる時に、私は気が付いた。 食堂に行けば、北村君に会うかもしれない。 パジャマ姿まで見られておいてなんだが、すっぴんのまま彼に会うのはなんとなく嫌で、砂由に頼み込んで化粧をしていく事にした。 砂由は怪訝な顔をしていたけれども。
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