T/P

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n+38個目の記述      僕の前世が中世ヨーロッパ、厳密には北イタリアのミラノで錬金術師をしていたと知ったのはごくごく最近のことだった。教えてくれたのは携帯サイト『あなたの前世診断』で、名前と生年月日と血液型と性別を入力して幾つかの質問に答えたら教えてくれた。続けて前世が中世ヨーロッパ付近の人専用のコミュニティーサイトも紹介してくれたのだ。とても親切だ。   『こんにちは。初めまして[ミラノの錬金術師]さん。私の前世は[ルクセンブルグ家の近衛兵]なんですけど、よければ仲良くしてね』  僕は[ルクセンブルグ家の近衛兵]さんのプロフィールページにジャンプして、適当に書き込んで友達申請した。しばらくしたら友達申請受付のメールが届く。 『[ミラノの錬金術師]さん、友達申請ありがとう。そういや前世の終わりって覚えてる?よければ教えてよ。』  メール返信。 『四十二歳のとき、弟子の錬金術師に毒を盛られて死んだんだ。きっとその弟子は僕の秘術書が欲しかったんだと思う。』  メール着信。 『なるほど、いつの時代でも妬みとかはあるんだね。俺はルクセンブルグ家の門の前で反乱農民に刺殺されたんだ。ところで俺は前世で北イタリアのミラノで母親のブロンズのブローチを錬金術師に頼んで純金にしてもらったんだが、その錬金術師は君か?』  メール送信。 『よく覚えてない。なにしろ当時は忙しかったからなあ。弟子を指導したり錬金術を研究したり、東方の国に招かれて銅銭を純金に変えたりしたんだ。』  メール着信。 『なんだ、客を覚えてないのか。ちょっと残念だな。俺はここで前世に関わりあった人を探してるんだ。前世が[ルクセンブルグ家の当主]もこのサイトで見つけたんだ。何百年ぶりに主に会えたんだ。本当にびっくりだ。[ミラノの錬金術師]くんも、このサイトにいれば前世で関わりあった懐かしい人に出会える。会いたい人はいないか?』  メール送信。 『そうだな、両親と錬金術の師匠に会ってみたい。あと、モンテカルロのパン屋の娘にも会いたい。いつも髪を一つに束ねていて背が高く透き通るように肌が白く、不思議なくらい僕の前でしか笑わない娘だった。結婚の約束をしてたんだけど、僕が錬金術師をしていたので両親に反対されたんだ。結局娘は両親に連れられてシチリアの修道院に入れられた。最後に会ったのは娘が修道院に出掛ける直前だった。』
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