Ⅰ: MOON CRY~出逢い、満月は泣く

21/21
108人が本棚に入れています
本棚に追加
/52ページ
 瞼を閉じながら胸の辺りで震える拳を懸命に抑えようとしているトリシア。だが、彼女の中では恐怖よりも好奇心が勝ってしまっている。  飛び出すのは一瞬だった。窓枠から一気に跳躍し、練り込んだ魔力を使ってまだ小さな身体を空中で支えると、少々不安定ながらも何もない空間に漂う事が出来ているではないか。  これで自信を持ったトリシアは更に魔力を練ってある場所を目指してゆっくりと空中を移動して行く。  しばらく空中散歩を楽しんだトリシアは真っ白な雪が積もった広い平原を見つけると、ゆっくりとその中心へと降りていこうとした。  夜空からは舞い踊り始めた綿毛のような雪、地にもうすぐ足先が届くような距離まで降りてきた時、突如トリシアの感覚を凍てつかせるように強い魔力がぶつかり合う気配が辺りを支配してしまう。 「…炎…それと…水の魔力?」  感じ取った魔力の波動を更に読み取ろうとした時、雪原の隅にある森林の奥、闇の中から現れた青年が月光の元に出て来た。彼は漆黒の髪を靡かせながら真紅の双眼でトリシアの姿を確実に捉えている。  トリシアが外の世界で初めて出会った存在。彼から感じ取った魔力の波動。 「…ヴァンパイア」
/52ページ

最初のコメントを投稿しよう!