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【魔界】
澄み切った空気に揺れる小さな花たち。
明かりを消した室内で窓際に腰を下ろし、長いドレスの裾をユラユラと揺らしながら空に輝く月を見上げている薄桃色の長い髪をもつ女性。
彼女の手の先にはスヤスヤと眠るドラゴンの額があり、小さな前足と翼は器用に畳まれ発達した後ろ足は自由に伸ばした状態で寝転がっていた。彼女はその様子を見て微笑を浮かべている。
「ここに居たんですの?リルライナ」
「ヘイムダルか…もうじき月が完全に丸くなると思うてな」
肩にかかる髪を指先でいじりながら空を見上げるリルライナと、そんな彼女の側まで歩いていく銀髪の女性。
腰まで伸ばされた銀髪はゆったりと歩く彼女の起こす風によってふわふわと舞っている。
「…わたくしには何故彼らが向こう側にこだわっているのか…全く分かりませんわ」
「そうじゃな、妾(ワラワ)も分からぬ…じゃが、カインが初めて頼み込んできた事…叶えてやらねばなるまい」
ヘイムダルのアクアマリンの瞳が僅かにかけた月を捉えるとリルライナも空を見上げて微笑を笑みへと変えて窓ガラスに手を伸ばした。
ガラス越しに月に触れるリルライナの指先がゆっくりと輪郭をなぞる。
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