第一話 「朝日」

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 そこにはミントよりも長い栗色の髪をなびかせ、黒いガウンを着たミラン母さん。 そして、その後ろに執事のセバンヌと、メイドのサニアが立っていた。 セバンヌとサニアは、僕と目があい会釈し、母さんより後ろの方で、様子を見ている。 「母さん」 「あらあら。 二人とも寝ちゃったの?」  母さんが僕らの方へ近付く。 そのままベンチに寄り掛かると、ミントの頭を撫でて微笑む。 母さんは入浴してきたのか、石鹸のいい香りがする。 よく見ると、髪がまだ少し濡れているように思えた。 「あら。 気が付いた? 新しい石鹸に変えたのよ。 どうかしら?」  母さんは後ろから僕の首元に手を回し、ベンチ越しに僕に近づく、何の匂いかはわからないが、ほのかにいい匂いがした。 「いい匂いだよ」 「そうでしょ? 昨日街に行った時に買ってきたのよ」  嬉しそうに話す母さんは、僕の頬に自分の頬を優しく重ねる。 「アランにも、いい匂いをおすそ分け」 「うん」  嫌じゃないのに、凄く恥ずかしい感じがする。 こう言うふうに、母さんと触れ合うのが、久しぶりだからだろうか。 「あら? 照れてるの? アランはおませさんね」 「照れてなんかいないよ!」 慌てて母さんから視線をそらし、朝日を見つめる。 「……」  母さんは僕の頭を撫で続ける。 そろそろ止めてほしいが、僕は止めなかった。 「アランは眠たくないの?」 「うん」 「リュートもミントも寝ちゃってつまらなくないの?」 「うん」 「ママは眠たくなっちゃったから、先に帰ってもいいかな?」 「うん」 「朝日……綺麗ね」 「うん……とても綺麗だ」    何気ない会話を交わし続ける。 僕は、山の上を通り過ぎた太陽を、静かに見つめ、陽光が空を照らしていく様を見つめていた。 「アラン。 そろそろ、二人を起こしてお屋敷に入りましょう」 「僕は……まだ見てるよ」  母さんを見もせず、煌めく空だけを見つめる。 「そう……早く戻ってきなさいね。 今日はお昼から剣の稽古があるから」 「うん」
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