第一話 「朝日」

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 そう言った母さんは、ミントを抱きかかえる。 それに倣うかのように、セバンヌはリュート兄さんを背負った。 「サニアを、残して行くわ」  それ以外何も言わず、母さん達が去っていく。 僕はじっと空を見つめ、色々な事を考えていた。 「アラン様は、朝日が好きなんですか?」  サニアが唐突に話しかけてくる。 サニアとは一応、長い付き合いだが仕事以外で、サニアが話し掛けてくるのはとても珍しことだ。 だが今は、会話をしたいという気分じゃなく、ただ一人になりたかった。 本当は朝日なんて、どうでもいい。 僕は彼女の質問に答えず、空を見つめ続けた。 「アラン様?」 「ごめん。 今は、話したくない」 「……申し訳ございません」  何も悪いことをしていないのに、サニアは謝る。 僕はサニアに悪いことをしてしまった。 相手の気持ちも考えられない今の自分が、凄く嫌な人間に感じられる。 「これは、私の独り言です。 私は朝日より夕日のほうが好きです」  サニアの気遣いが凄く自分を惨めにさせている気がした。 急に朝日の眩さが嫌になって目を逸らす。 同時に膝の上に落ちた、僕の金色の髪が、腹立たしさを増幅させ、乱暴に払い落とした。「アラン様。 そろそろ戻りましょう」 「先に戻っていいよ、サニアにも仕事あるんだし」 「ミラン様にアラン様と戻るようにと言われました」  色々とごまかす手立てを考えたけれど、その途中で無駄だったことに気付いた。 サニアは言い付けを破るような事はしない。 例えそれが自分にとって良くないことでも。 一人になりたかったけど、諦めるしかないらしい。 「戻るよ」 「はい」  立ち上がった僕は、サニアと共にベンチを後にした。 屋敷に戻るまでの間に会話など無く沈黙が続いた。 正面玄関に着くとサニアは扉を開け、僕は何も言わずに中へと入る。 彼女はそれを見届けると、軽く会釈をし、外から扉と鍵を閉めた。 朝になっても屋敷の中は、まだ薄暗い。 玄関ホール、その正面に見えるの階段、廊下などの至る所に、等間隔で置かれている短い蝋燭の灯りだけが頼りだ。 二階に続く階段を上り、自分の部屋に向かう。
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