タイムトリップその1

2/5
前へ
/14ページ
次へ
これで死ねる。もう生きてたって仕方ないし。 この高さから落ちれば何があったって即死だろう。 垣根に落ちたって関係ない。映画みたいに車の天井に落ちたって助かりっこない。 飛び降り自殺をしたのに生き延びるなんて格好悪いことは出来ない。 人生が冴えなかった分、最後くらいは格好よく終わりたいし。 でも、この高さなら大丈夫。 仕事もクビになって、新しい就職先も見つからない。借金ばかりがかさんで、住んでたアパートも追い出される有り様。 当然のように両親からも見放されてる、とっくの前から。 現実から目をそむける為にギャンブルにおぼれて、たらればを信じて宝くじを買ってみたりもした。 今となればそんなもの外れて当たり前だとは思うが、そのときは 『万が一ってことがある』 みたいな自己暗示にかかってでもいたんだろう。 わずかな望みは持っていた。言うまでもないが、全てが紙くずになって消えていった。 当たってたらこんなところで自殺なんてしないし。 終いには好きだった女の子にもフラれて。 あれは決定的だった。 致命的だった。 最後に残っていた消えかけの生きる気力が吹き消された感覚だった。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加