序曲

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冬が影を潜め、春の風が顔を出し始めた頃。 その男はやる気もなく、ただ黙々と作業をしていた。 〔ピンポーン〕 注文が入ったことを知らせる音が鳴り響く。 それと同時に注文が書かれた紙が、機械から出てくる。 (バーグ2個か。) やる気が無さそうにハンバーグを取りにいき、鉄板にのせる。 それと共に、ハンバーグをのせるプレートをコンベアー式オーブンに流す。 流れ作業。 感情なんかこの場では必要ない。 「拳治(けんじ)ぃ。それ出したら上がりでいいぞぉ。」 料理長が言う。 「OKぇっす。」 ハンバーグをプレートにのせ、ホールに渡し、作業を終えた。 「お疲れさまでぇっす。」 早々と手を洗い、厨房を出て更衣室に向かう。 (やっと終わったよ。明日は、) 着替えながらシフトを確認する。 (だる。また10時からか。) 着替えを済ませ、すっかり暗くなった道を歩いて帰った。 アパートからバイト先までは歩いて5分程度。 このバイトを選んだのも、この近さ。それだけ。 明日もバイト。 先のことなんて考えないで、毎日毎日、一瞬一瞬生きている。
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