3/9
527人が本棚に入れています
本棚に追加
/115ページ
 肺の中の空気すべてがなくなるかと思えるほど大きく息を吐き、白く長い腕を天井へと差し出す。何かを思うように強く拳を作り、握りつける。  それから静かに力を抜き、そのため、腕を力なく体の脇に落ちた。  ゆらりとした気のない動きで、力が入っているかさえよく分からない腕で体を支え、ゆっくりと起き上がると、そのまま長い足をベッドからおろす。  立ち上がり、簡素な六畳間の部屋の中を見回すが、あるのはベッドとクローゼット。  他には、古ぼけた木の机ぐらいしかない。  大幅に場所を取るのは、固い質素なベッドだ。体重をかければぎしぎしと軋む。  窓際には、申し訳程度に取り付けられた窓があるが、そこから光が差し込むことはない。隣にそびえ立つ、大きなビルのせいだ。  かと言って、彼がそれで何か不自由するわけでもないのだか。ふらふらと揺れる電灯ひとつがあれば、特に困ることはない。  休息だけを取ることが出来れば、それでいいのだ。  ここは、彼にとっては体を休めるためだけの場所にしか過ぎないのだから。
/115ページ

最初のコメントを投稿しよう!