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 ひやりと冷たい床に足をつけると、そのまま立ち上がり、無造作に机の上に置かれたままの服に手を伸ばす。  薄暗い部屋の中で、それが一際の異色。他の何物よりも深く濃く、そして凍てついた黒。幾人もの血を吸い、淀んだ色を纏った服だ。  それを羽織るように腕だけを通し、白鬼は呆然と宙を見据える。炎色の瞳は、薄明かりの下、何かの決意だけを宿して凛と輝いている。 「俺は……」  頼りなさげに揺れる明かりの微細な光を、その瞳に影として落としながら、白鬼は呟きを、本当に小さな呟きを漏らす。 「……許しは、しない……」  それは、自分に対する誓約。  己に課した、逃れることなど不可能な呪いの言葉。  それを、その唇が発した途端、瞳の中にあった影さえも身を潜めてしまった。後に残るのは、唯一絶対の虚無だけ。
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