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尋ねる声に、返事はない。
ゆらゆらと揺れたままの影を宿した炎の瞳は、いつのまにかどこか遠くを見つめていて、己の前に立つ癒那の姿は、視界に入ってすらいなかった。
「どうでも、いいだろう。そんなこと」
遠くを見つめたまま、唇が語る。
低く低音で響く声。だが、癒那は脅える風もなく、白鬼の顔を心配げに見やる。
「でも、なんだか苦しそうな顔してる。大丈夫?」
「……っ!」
深く覗き込まれた途端、白鬼の表情が大きく揺れた。波立つように揺れる、瞳の中の影。
「やめろっ!!」
渾身の力を込めて癒那を突き飛ばすと、白鬼は己の体を抱き込んだまま、膝から力が抜けるままに地に崩れた。
膝によって叩かれた血溜まりが、激しくしぶきを飛ばす。
震える体。浮かぶ冷や汗。
「白鬼?!」
大きく痙攣を繰り返す自分の体を、血が滲むほど必死に押さえ込みながら、白鬼は強く瞳を閉じた。
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