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 ……それは、今から四年前の出来事。  けぶるように、辺りの視界を覆いながら降りしきる雨。低く垂れ込めた分厚い雲から落ちるそれだけは、昔から寸分も変わらない。  ひたひたと窓に叩き付けられては壊れ、透明な線を描く滴を見つめ、未だ少年のような風貌の白鬼は、その淀んだ灰色の瞳を、自分の背後で椅子に腰掛けて本を読む少女へとやった。  まるで、曇り空のように深く、底の知れない色のその瞳。  それは、年月をかけて失われてしまった、色彩の結晶だった。  宝石をも思い出させるような緑が薄れ、濁り、そうして淀んだものでもある。  唯一、深く覗き込んだその時にだけ、昔と同じような緑色が見え隠れする。 「……璃羅(りら)……」  自分に注がれる白鬼の視線と、自分の名前を呼ばれたこととに気が付き、少女・璃羅は顔をあげた。 「なぁに?」  なめらかでつるつるとした、絹のような光沢の長い髪。色彩は、カラスの濡れた羽根のようだ。流れるように肌の上にかかりながら、それは赤いビロードの椅子の上に、その色彩を散らしている。  その黒と赤に映える、白い肌。きめ細かな、まるで極上の織物のような。  穏やかに細められた瞳は、最高級の紅玉。血のように紅く、底の知れない深い色。  生気を帯びたそれは、まるで燃え盛る炎のようでもあった。
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