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マスターの淹れる珈琲は、抜群にうまい。こころの中に溜まっている真っ黒な「かわいさ」の欠片もない部分を、溶かしてくれる、温度。
苦すぎず、甘過ぎない。
このぽちゃぽちゃとしたマスターの柔らかい手から、私の最大の安定剤(そして最終兵器)が精製されるんだ。
錬金術に近いのかも知れない。
ほんの少しの代価から、より多くを引き出す『エリクシル』なのだろう。私は思う。
BGMが変わった。
もちろんビートルズのままなのだけれど、ああこれは
ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイヤモンズ。
「あら、今日は早いのね。咲子。」
マスカラが踊る、色白の高嶺。
「あ、『ルーシー』。」
シフォンをつつく手を止めて、私は彼女を見る。
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