1,左目の痙攣

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「今日は早いね、さっちゃん。」   ぱりっとしたYシャツ、とは程遠い無地のトレーナーを着たひげのマスター。 いつも通りのにこやかな雰囲気で私を迎えてくれる。   「うん、ちょっと今日は、ね。」   私はいつもの一番左の席に座ると、ダッフルコートをイスにかけてブレンドを注文した。   「梶田さん達、さっきまでいたんだよ。」   お湯を沸かしながら、マスターは本日の豆――コロンビアをフィルターに撒く。   「あ、入れ違いかあ。残念。」   出されたおしぼりで顔拭くと、すごくほっとした。おじさんみたいだよって言われるけどこれだけはやめらんない。   「ビリヤードやりにいったみたい。たぶんまた戻ってくるよ。」   「また行ってるんだ、好きだね。」   私はぼんやりと、きれいな瓶に入った珈琲豆たちを見る。マスターが選びに選んだ子たちだ。   「新作のスイーツ、食べてみる?」   私は深く頷いた。    
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