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5組の教室から出て来た彼女は、独りでこちら側へと歩いて来る。
通学鞄を肩に掛けている辺り、これから帰る所なんだろう。
名前、“薪森 桜”っていうのか。
同じ名前の木の下に佇んでいた彼女のイメージそのままの名前だ。
可憐で綺麗で儚い、桜。
「やっぱ他の女子とはレベル違うわ」
「オーラ半端ねぇよな」
徐々に俺達との距離が縮まる彼女を見て、葛西と安井がひそひそ話している。
思わず俺はすっと移動し、彼女が通ろうとしていた軌道に立ちはだかった。
片脚に松葉杖なのに機敏な動きが出来るのは親から譲り受けた運動神経の遺伝。
「あの!朝はありがとうございました!」
と笑顔で声を掛けると、彼女は俺の顔を見上げながら足を止める。
初めて間近からその姿を見るけど、びっくりするほど肌も髪も黒目も色素が薄くて睫毛が長い。
「迷わないで職員室に行けました!ありがとうございます!」
すると彼女は俺を見る目を一瞬だけ大きくさせる。
きっと気付いてくれた表情だ。
「……今朝の人ですか?」
「はい!今朝の僕です!」
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