39272人が本棚に入れています
本棚に追加
/698ページ
小木原が言った内容よりも、無口な小木原から唐突にフォローされた事の方に驚いた。
「え……あ、そうなの?」
「ああ」
小木原は無表情のまま軽く頷き、また俺から少し離れた。
立って並ぶと、小木原の身長が俺とそんなに変わらない事に気付く。
そういえば、彼女は敢えて他人と距離を置こうとしているような気がする。
何ていうか、誰かと話をするのも嫌そうな。
「ま、いいや!つーか早くカラオケ行こーぜ!」
葛西が歩き出すと安井も動き、続いて小木原も歩き始めた。
だからここは俺も気持ちを切り替え、彼女に逃げられた理由を深読みするのを止めて取り敢えず松葉杖を前へ動かす。
フランス人形みたいな顔。
光が透けると黄金色になる、栗色のロングストレートの髪。
透明感があるソプラノボイス。
無表情、素っ気ない言葉。
桜の木の下にいた儚げな女子高生。
桜吹雪の中にいた同級生。
薪森 桜。
それが彼女の名前。
俺の人生を変える事になる、唯一無二の女性。
最初のコメントを投稿しよう!