慕情

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  「ほら、慎吾。そろそろ出るから早く支度して」 「あーい」 朝の登校前、母さんがジャケットを羽織りながら俺を急かした。 ギプスが外れるまで朝は母さんが車で学校へ送ってくれる為、母さんに従って行動しなければならない。 俺は足元の床に置いていたリュックを背負ってダイニングチェアを立ち、端に立て掛けていた松葉杖を両脇に据えて身体を支えた。 「ママー、ついでにあたしも乗せてー」 隣に座っていた妹の彩芽(あやめ)もダイニングチェアを立ち、ソファーに置いていた通学鞄を取って肩に描ける。 「何でよ?あんたは健康体で学校も近いでしょ」 「うちの中学も通り道なんだしいいじゃん。ね、いいでしょ?」 「まあ、確かにそうね。じゃあ早く仕度してちょうだい」 母さんはキーケースを持って先に玄関を出て行き、続いて俺も彩芽もリビングから玄関へ移動した。 「お兄ちゃんさあ、怖くないの?車」 先にローファーを履いた彩芽がふと振り返り、玄関用に買ってくれた丸椅子に座って左足にスニーカーを履く俺に突如問い掛けた。 その質問は、一瞬にして俺の脳裏にあの光景を蘇らせる。
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