慕情

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渡り廊下に差し掛かると、俺の視線は自然と渡り廊下の窓の外へと向いていた。 今朝もあの桜の木は変わらずにそこに在るけど、彼女の姿は無い。 桜の花弁も昨日と比べて大分散り、一層侘しい風景へと変貌している。 桜の季節は終わるのが早い。 「あ、おーっす!なあ、お前らも見てみろよ!」 小木原と揃って教室に入ると、既に来ていた葛西と安井が俺の席付近で窓の外を指差した。 俺と小木原は言われるがまま窓の下を覗き込んでみると、葛西が指差している校庭の隅に男子生徒と女子生徒の姿が向き合って立っている。 目を凝らして良く見てみると、女子生徒の方は薪森 桜だ。 「見ろよ、あの雰囲気!あれ絶対告ってんぞ!」 「どうせまともに喋った事も無いだろーに、よく告れるよなー」 薪森さんと向かい合って立っている男子生徒を葛西と安井は笑い者にしているが、俺と小木原は無言でじっと男女の様子を眺めた。 すると薪森さんは相手の男子に対して軽く頭を下げ、直ぐにその場から足早に立ち去って姿を消す。 葛西と安井の読み通りに恋の告白だとしたら、彼女は彼を振ったんだろう。
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