39272人が本棚に入れています
本棚に追加
/698ページ
4月中旬。
県立西高等学校、正門前。
「仕事だから帰りは迎えに来れないわよ?大丈夫なの?」
「大丈夫だって。何回同じ話すんだよ」
「本当に心配なのよ」
「頼むから黙って見守ってて下さいよ。お願いしますよ」
「はあ……。あんたの為だと思って早く退院させたけど、やっぱり治るまで入院させておくべきだったかしらね……」
「また振り出しですか」
また始まった運転手の母さんの心配性にはうんざりだ、今は逃げたもん勝ち。
「もう行くわ。送ってくれてありがと」
俺は助手席のドアを開けて体面に抱えていた松葉杖一組と左足を地面に降ろし、右足が地に着かないよう庇いながら車外に全身を出して松葉杖に両脇を据えた。
「無理しちゃ駄目よ!分かったわね!?」
「はいはい。無理しません」
助手席のドアを勢い良く閉めると、母さんが運転する車は道路の彼方へと消えて行く。
膝下から甲までギプス固定した左脚下肢を宙に浮かせたまま松葉杖を駆使して方向転換し、正門の奥に建つ校舎全体を眺める。
そして軽く深呼吸して気合いを入れた。
最初のコメントを投稿しよう!