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まだ人気が無く物静かな校舎の廊下、自分が突く松葉杖の音と左足の靴裏の音だけが響いている。
渡り廊下の真ん中辺りに着いた所で足を止め、方向転換して窓ガラス側へと全身を向けた。
そこには桜の木が一本だけそびえ立つ中庭が存在していて、もうじき5月なのに桜の花がまだ枝に残っている。
春風に吹かれた桜の花弁は芝生に散らばり、緑とピンクのコントラストが綺麗だ。
今年は例年よりも桜前線の到達が遅いらしく、春になってから外出したのはつい一昨日だった俺にとっては、春を実感する景色。
桜の木に暫く見惚れていると、中庭の向こう側に見える校舎の角から現れて歩いて来る人物が。
女子のブレザーの制服を着ているその人は渡り廊下の窓に俺が居る事に気付かず、桜の木の幹に右手を添えながら桜が咲き誇る枝を見上げた。
「何してんだ、この人」と思いながら目を凝らすと、彼女の容姿の特徴が鮮明になっていく。
透き通るような真っ白な肌、春風に靡く栗色ストレートロングのさらさら髪。
黒目がちの大きな瞳、すっと通った細く高い鼻、紅めの唇。
友達の母親が趣味で集めてるフランス人形みたいだ、と思った。
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