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「お兄ちゃん!」
「慎吾!」
「聞こえるか!? 慎吾!」
家族みんなの声がする。
暖かい。
心電図みたいな音が聞こえる。
全身が痛い。
身体が動かない。
でも瞼は動きそうだ。
重い瞼をこじ開けると、何故か左半分しか視界がない。
右半分の視界は何かに遮られてるような感じがあるけど、それでも3つの顔がぼんやりと見えて来た。
今度は暗闇ではなく明るくて、強い光が左半分の視界に広がっている。
全身が痛む中、左手だけは暖かく強い力で包まれた優しい感触を感じる事が出来た。
視界を左手の方へゆっくりと向けて見ると、真っ白な敷物の上に包帯が巻かれた左手が在る。
そして、その左手を包み込む様に握っている二つの細く白い手。
「……ごめんね、お兄ちゃん……本当にごめんね……」
視界の霞みが徐々に晴れ、目に見えるものがはっきり見えて来た。
俺の左手を両手で握っているのは、泣いている彩芽だ。
もしかして、今度こそ本当に病院?
死んでない……?
生きてる……?
「……慎吾……」
目を涙ぐませながら微笑む母さん顔が見え、懐かしい手の感触を頬に感じた。
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