出逢いの春 ─高校1年─

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この先生とは(あらかじ)め電話でも話したけど、電話で聞いたのと全く同じ喋り方だ。 ガサツな喋り方ではあるものの良い先生っぽい印象。 「うちエレベーターあるからなるべく階段は使うなよ?転倒でもしたら大変だしな」 「はい、そこは遠慮無くエレベーター活用させてもらいます」 「おう、是非そうしろ。しっかし大変だわなー。車には気ぃ付けねーとなー」 この学校や担任には『車と接触して入院』とだけ、怪我の状態については『右脚の骨折』と伝えてあった。 それは事実ではなく、嘘だ。 治ったからこうして退院してどうにか松葉杖で学校に来られたけど、本当は顔面も肋骨も右腕も骨折していた。 この右脚も、脛部の開放骨折と足首の二ヶ所を骨折している。 怪我は脚の骨折だけというのも嘘、車と接触したというのも嘘。 実際はもっと酷い事故で、もっと重傷だった。 当時は全国ニュースにもワイドショーにも取り上げられた大惨事の事故。 生存者の名前は公にならなかった事だけが、俺にとって唯一の救い。 こんな事で世に名前を発表されるなんて御免だ。 この事故に俺の名前を残したくない。 
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