桜花の春 ─大学2年─

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「じゃあ“慎吾くん”と呼べ!」 殴られた左目を左手で覆いながらの間抜けな状態だけど、上から目線で答えた。 柊平が素直にそんな呼び方を受け入れるとは思えないが、理不尽な理由で殴られた事への腹いせも含んでいるのでヤケクソだ。 どうせ『誰が呼ぶか』と怒鳴るに決まってる、と予想通りの答えを期待した。 「分かった」 柊平は無表情のまま飄々とした態度で俺の命令を受け止め、予想を裏切る反応に俺は呆然とした。 「妹と親友に感謝しろよ。じゃあな、慎吾くん」 つんとした眼差しで俺を横目に見ながら柊平はそう言い、そのまま踵を返した。 玄関のドアの前に唖然と突っ立っつ俺の前から颯爽と立ち去り、我が家の敷地を後にして道路を右折した柊平の姿が暗い夜道に消えていく。 どういう事だ? 何のつもりなんだ? 憎たらしいあの柊平が本当に“慎吾くん”と呼ぶなんて珍事だ。 取り残されたまま棒立ちしていると、次第に可笑しさが込み上げて来た。 訳も解らずに殴られたけど、柊平はやっぱり何処か憎めない。 が、理不尽に殴られた事については腹が立つし痛い。
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