焦燥感

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だから、私は振り向かなかった。この涙を見せたくなくて。 「何を、しとるんじゃ。」「っ………」 「先輩には関係ないっスよ。」 「朔夜は俺の女じゃ」 先輩が赤也を睨み付ける気配がした。 目の前で赤也が息を飲む。 「人の女に手ぇだすんじゃなか。」 そう言って私を引き寄せる。そして、まるて赤也に見せ付けるように深く、激しくキスをする。 「っ……ぅ…は…」 そんな私たちを見て、赤也は大きくため息をつく。 「はぁ…やってらんねぇぜ……先いっとくぜ?」 そう呟くと赤也は私の分の荷物を持って去っていく。 「……ぁ…」 息ができない。 口のなかを掻き乱される。 頭の端で気持ち良さを感じてしまい力が抜けていく。 こんなキス、初めてだ。 「っ…ふ……」 とても長い間そうされていた。 「……せん…ぱ…もぅ…無理…」 そう言った瞬間、唇を解放され抱き締められる。 「先輩……?」 「朔夜…朔夜っ朔夜…」 そうとだけ何度も何度も繰り返す。 「……離してください」 そう言っても抱き締める力は強まるばかりだ。 「離してくださいっ」 「嫌じゃ……っ」 「っ……あの人と、話してれば良かったのに…どうして来たんですか?」 「っ……」 私は仁王先輩の腕の中で厭味を言う。 「あいつは……『1日だけデートしたら諦める。でも断ったら彼女に何するかわからない』って言ってきたんじゃ……だから、」 「それ本当ですか…?」 「当たり前じゃ!」 安堵で体が崩れた。 仁王先輩は、私を守るためにあの人とデートしたんだ……。そう思うと自分が情けなくなってくる。 「よかったぁ………」 そういって涙を流す私を抱き締めて、仁王先輩はこう耳元で囁く。 「1週間も逢えんと苦しいのぅ……誰と話してても朔夜の事ばっかり考えてたぜよ。今日逢えんかったらお前さんの家にいっとったかもしれん。」 「っ………もう何言われてもデートとかしないで下さいよ?」 そう言うと、先輩は私の唇にキスを落とし、とびきりかっこいい声を耳元で囁いた。 「安心せい……何があっても、お前さんは俺が守るぜよ。」 おわり
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