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(……やってみようかな、拾ってくれるかな)
退屈な授業中に頭に流れ込んできた声は、か細い女子のものだった。
他の人間の意思はほとんど数字が並んでいるばかりで詰まらなかったため、桜子にはこの心の声が際立って聞こえた。
何気なく装って、窓際一番後ろの席から教室全体を見渡す。
一人、背を少しだけ丸めて座ったまま机の上で手をせわしなくもじもじ動かしているる女子。
あいつだ。
桜子はその女子に意識を集中させた。
(これ落としたよ。 って……)
爽やかに人の良さそうな笑みで笑う男子の顔が浮かび上がった。
消しゴムを手に、それを差し出している。
その男子というのは、その女子の隣に、頬杖をついて頭で船を漕ぎながら危なっかしく座っている。
(山崎さん、田宮が好きなんだ)
思わず笑ってしまう口を教科書で覆う。
山崎は内気な女子で、誰が話しかけても俯いてばかりいるような人間だった。
そんな彼女が、なんとも彼女らしいやり方で隣の席の男子の気をひこうとしているのだ。
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