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彼女は、ひどく猟奇的な女だった。
ある日、彼女が私達の学舎を舞台に
血を血で洗うようなひどく凄惨な事件をひきおこした時も、
しかし私は、
私だけは大丈夫だと思っていた。
私は彼女の唯一の話し相手であったし、他視上は私は、彼女の親密の相手であったからである。
黄昏に燃えた天蓋は想像もつかないほどに早く教室へ進入し、
闇をのぞく物すべてが紅の色をしていた。
荒々しくその場に浮かぶはずの血風景は紅陽の侵略を受けて沈黙していたのである。
彼女が持つ致死の刃渡りの鋭器すら確認しずらいほどだった。
彼女は振り向いたが、その姿が私にとってひどく美しくて石像のように立ち尽くした。
彼女は私を確かに見たのに、鋭器は石の喉を裂いて私を死に到らしめたのだ。
破裂した喉から飛んだ私の血は彼女の前頭部をそそぎ、双眸を紅く抱いたようだった。
彼女は、ひどく猟奇的だった。
しかし、
私はそれよりもそうだった。
「あれが、例の女か」
「なんでも、自らの恋人すら手にかけたそうだね。」
「はあ。当人によれば、まるで夕焼けが火のようで、だれもかも同じように紅くなってわからなかったのだと。」
「ほう。まさに、誰そ彼の悲劇というわけだ。」
「ところで、あれは何をしているのだ。」
「洗顔を。なんでも、いくら洗っても落ちないのだと。」
「随分しつこく洗っているようだがね。なにが落ちないのだと言うのだ。」
「その…」
「男の血です。」
彼女はひどく猟奇的であった。
しかし、私はそれよりも猟奇的である。
私の愛と血は彼女の瞳と融合し視界に永久の黄昏をもたらすだろう。
くれないの世界の完成である。
――――――――――――――
おわり
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